奉還町商店街『まるごとフリースクール』- 街全体が子どもの居場所になる実践例
まるごとフリースクールとは - 商店街が"学びの場"になる
5日間のシリーズ、最終日です。今日は、私たちが2017年から取り組んでいる「まるごとフリースクール」について、具体的にご紹介します。
「まるごとフリースクール」とは、教室や校舎を持たず、奉還町商店街全体を"学びの場"として活用する新しいフリースクールの形です。
八百屋で野菜の名前を覚える。カフェで接客を体験する。中古レコード屋で好きなアーティストと出会う。パン屋でパン作りを教えてもらう。靴屋で靴磨きを学ぶ...。
商店街のすべてが、子どもたちにとっての「教室」になるのです。
通常のフリースクールが「学校に代わる場所」を提供するのに対し、まるごとフリースクールは「社会そのものが学びの場」という考え方に基づいています。
JR岡山駅西口から徒歩8分。昭和の面影を残すこの商店街に、今日も子どもたちが「ただいま」とやってきます。
実際の活動紹介 - ある1日の様子
まるごとフリースクールの1日を、具体的にご紹介しましょう。
13:00 昼の集まり
地域交流ステーションverdeに子どもたちが集まってきます。今日は小学生3人、中学生2人、合計5人。スタッフが「おはよう!今日は何したい?」と声をかけます。
小5のBくん:「今日は商店街探検したい!」
中2のCさん:「私は静かに勉強したい」
小6のDさん:「パン屋さんでパン作り体験してみたい」
それぞれの希望を聞いて、一日の予定を立てます。誰かが決めたカリキュラムではなく、子ども自身が「やりたいこと」から始まるのが特徴です。
13:10 それぞれの活動開始
Bくんは、スタッフと一緒に商店街マップを作り始めました。お店を一軒ずつ回って、「何のお店か」「どんな人がいるか」を記録していきます。
Cさんは、verdeの静かなスペースで数学の問題集に取り組んでいます。わからないところがあれば、スタッフが教えますが、基本的には自分のペースで進めます。
Dさんは、商店街のパン屋さんへ。店主さんが優しく「今日はメロンパン作りを教えるね」と声をかけてくれました。
14:30 後半の活動
Bくんは、前半に回れなかったお店を訪問。八百屋のおじさんが「今日はこれサービスや。持って帰り」とリンゴをくれました。
Cさんは、勉強を終えて、verdeにあるボードゲームで遊び始めました。途中から小学生も加わって、みんなでワイワイ。
Dさんは、パン屋さんでの体験をノートにまとめています。「パンを作るのに、こんなに時間がかかるんだ」という発見を、丁寧に書き込んでいました。
15:50 帰りの会
今日一日を振り返ります。
「今日はどうだった?」とスタッフが聞くと...
Bくん:「商店街に、こんなにたくさんのお店があるって知らなかった!」
Cさん:「数学の問題が5ページも進んだ!」
Dさん:「パン作り、また挑戦したい」
それぞれの「できた!」「楽しかった!」を共有して、今日は終了です。
商店街のおじさん・おばさんが"ななめの大人"になる
まるごとフリースクールの最大の特徴は、商店街の人たちが「先生」ではなく、「ななめの大人」として子どもたちと関わっていることです。
八百屋のおじさんは、教育の専門家ではありません。でも、野菜の名前、旬の食材、お客さんとの接し方...生きた知恵を子どもたちに伝えてくれます。
「これはな、春キャベツって言うんや。冬キャベツより柔らかくて甘いんやで」
そんな何気ない会話が、子どもたちにとっては貴重な「学び」になります。
カフェのママさんは、時々中学生に「今日、ちょっと手伝ってくれる?」とお願いします。テーブルを拭いたり、お水を運んだり。簡単なお手伝いですが、子どもたちは「誰かの役に立てた」という達成感を感じます。
中古レコード屋のおじさんは、子どもたちが来ると「今日はこんなレコードが入ったで」と新しい本を見せてくれます。そして、本の内容について語り合う。学校の読書感想文とは違う、純粋に本を楽しむ時間です。
商店街の人たちは、特別なことをしているわけではありません。ただ、日常的に子どもたちに声をかけ、関わり、時には自分の仕事を見せる。
それが、子どもたちにとって何よりも価値のある「社会勉強」になっているのです。
子どもたちの変化 - 具体的な成功事例
まるごとフリースクールを通じて、子どもたちはどう変わっていくのでしょうか?具体的な事例をご紹介します。
事例1:中学2年生Fさんのケース
Fさんは、学校では「優等生」でした。でも、完璧を求めるあまり、常にプレッシャーを感じていました。そして中1の冬、突然学校に行けなくなりました。
「もう頑張れない...」
お母さんが心配して、まるごとフリースクールを紹介しました。
最初、Fさんは「ここで何を勉強するんですか?」と聞きました。「好きなことをしていいよ」と言われても、「好きなこと」がわからなかったのです。
でも、商店街で過ごす中で、少しずつ変化が起きました。カフェでスタッフと話しているうちに、「料理が好きかもしれない」と気づいたのです。
それからFさんは、カフェで料理を教えてもらうようになりました。オムライス、パスタ、ケーキ...。一つずつできることが増えていきました。
半年後、Fさんはこう言いました。
「学校では、テストで良い点を取ることが全てだった。でもここでは、料理を作って『美味しい』って言ってもらえることが嬉しい。それが自信になった」
今、Fさんは通信制高校に進学を決め、将来はカフェを開きたいという夢を持っています。
事例2:中学3年生Gくんのケース
Gくんは、発達障害があり、学校の集団生活が苦手でした。興味のあることには驚くほど集中しますが、興味のないことには全く手をつけられません。
学校では「やる気がない」「協調性がない」と言われ続け、自信を失っていました。
まるごとフリースクールでは、Gくんの「好き」を大切にしました。Gくんは電車が大好き。そこで、商店街から駅までの道を調べ、電車の時刻表を作り、商店街マップと組み合わせる...という「プロジェクト」に取り組みました。
すると、Gくんは驚くほど集中して取り組み、素晴らしい「奉還町商店街アクセスガイド」を完成させたのです。
それを商店街の人たちが褒めてくれました。「すごいな!これ、お店に置かせてもらってもいい?」
Gくんは初めて、自分の得意なことを認めてもらえた喜びを知りました。
今、Gくんは高校に進学し、将来は地図を作る仕事に就きたいと考えています。
あなたの地域でも始められる「新しい相談のカタチ」
「うちの地域でも、こんな活動ができるでしょうか?」
よく聞かれる質問です。答えは「YES」です。
特別な施設も、多額の予算も必要ありません。必要なのは、「子どもたちを見守りたい」という気持ちと、少しの行動力だけです。
ステップ1:まずは挨拶から
商店街や地域で子どもたちを見かけたら、「おはよう」「こんにちは」と声をかけてみてください。それだけで、子どもたちは「ここにいていいんだ」と感じます。
ステップ2:顔見知りになる
何度か声をかけるうちに、子どもたちの顔を覚え、名前を知り、関係が生まれます。「今日も来たね」「元気そうだね」そんな言葉が、子どもたちの居場所を作ります。
ステップ3:ちょっとした関わりを
もし可能なら、お店の手伝いをお願いしたり、一緒に何かをしたりする機会を作ってみてください。子どもたちは「役に立てる」ことを喜びます。
ステップ4:見守りネットワークを作る
地域の人たちと「あの子、最近元気ないね」「何かあったのかな」と情報を共有してください。それが、困っている子を早期に発見するセーフティネットになります。
ステップ5:専門機関につなぐ
もし深刻な問題に気づいたら、学校や相談機関、フリースクールなどの専門機関につなぎましょう。地域の見守りと専門的支援を組み合わせることが大切です。
私たちSGSGは、「#おかやまJKnote」や「奉還町学習センター」など、様々な形で子ども・若者をサポートしています。もし相談したいことがあれば、いつでもご連絡ください。
まとめ:相談を"特別なこと"から"日常"に - 今日からできる第一歩
5日間、お付き合いいただきありがとうございました。
「新しい'相談'のカタチ」とは、特別な場所で特別な人が行うものではありません。日常の中で、普通の人たちが、自然に子どもたちと関わること。それが新しい相談のカタチです。
相談窓口に「来てもらう」のではなく、日常の中で「関係を作っておく」。
困ってから「助ける」のではなく、困る前に「つながっておく」。
問題を「解決する」のではなく、「一緒に考える」。
そんな関係が、これからの社会には必要なのです。
あなたも今日から始められること
□ 近所の子どもに挨拶をする
□ いつもと違う様子の子に気づく
□ 「大丈夫?」と声をかけてみる
□ 子どもの話を、アドバイスせずに聞く
□ 地域の人と子どものことを話し合う
□ 自分のお店や職場を子どもに開放する
□ フリースクールやユースセンターを知る
どれか一つでもいいので、今日から始めてみてください。
あなたの小さな行動が、誰かの子どもの居場所を作るかもしれません。あなたの優しい言葉が、誰かの子どもの人生を変えるかもしれません。
教育×商店街を楽しむためのアイデア。それは、難しいことではありません。子どもたちを「地域の宝」として、みんなで見守り、育てていく。ただそれだけです。
奉還町商店街は、JR岡山駅西口から徒歩8分。いつでも遊びに来てください。そして、子どもたちが商店街で楽しそうに過ごしている姿を、ぜひ見に来てください。
「まるごとフリースクール」の見学も随時受け付けています。
「#おかやまJKnote」の活動にも、ぜひご参加ください。
「進路の窓口」では、中高生の進路相談をお受けしています。
私たちと一緒に、「新しい'相談'のカタチ」を作っていきませんか?
子どもたちの笑顔があふれる地域を、一緒に作っていきましょう。
お読みいただき、ありがとうございました。
【SGSGグループ 各拠点のご案内】
地域交流ステーションverde(ベルデ)
中高生のための居場所。壁やかに交流しても、ひとりで過ごしても心地よい空間。
昼の部と夜の部を開講。昼は探究活動、夜は学習活動をサポート
奉還町学習センター
通信制高校サポート校。商店街をフィールドに様々なアクティビティを提供
個別指導型オンライン高等学院
東京のオンライン学習塾と連携し、通信制高校サポート。
#おかやまJKnote
学校の枠を超えた中学生・高校生が集まり「自分たちのやりたいこと」と「社会のニーズ」を掛け合わせ新たな価値創造を目指す。毎週木曜日17:30から定例ミーティングを開催。
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