学校でも家庭でもない"第三の居場所"が子どもを救う理由

なぜ今、第三の居場所が必要なのか

「学校」と「家庭」。子どもたちにとって、この二つが主な生活の場です。

でも、考えてみてください。もしこの二つの場所で居場所を感じられなかったら?もし学校でうまくいかず、家でも悩みを話せなかったら?子どもたちには、どこにも行く場所がなくなってしまいます。

実際に、私たちが奉還町で出会った子どもたちの多くは、こんな状況にいました。

ある中学2年生の女の子は、クラスで孤立していました。家に帰っても、両親は仕事で忙しく、話を聞いてもらえる時間がありませんでした。

「学校も嫌、家も居心地悪い。どこにも自分の居場所がない」

そう感じていた彼女が、ふらっと立ち寄ったのが奉還町商店街のカフェでした。そこで出会ったスタッフが、何気なく「よかったらここで勉強していきなよ」と声をかけました。

それから彼女は、毎日のように商店街に来るようになりました。特に何かをするわけでもない。ただそこにいて、時々スタッフや他の子たちと話をする。それだけで、彼女の表情は少しずつ明るくなっていったのです。

現代社会では、学校と家庭という「二本の柱」だけでは、子どもたちを支えきれなくなっています。だからこそ、「第三の居場所」が必要なのです。

「学校に行けない」≠「どこにも行けない」という選択肢

「不登校」という言葉を聞くと、多くの人は「学校に行けない子」をイメージします。

でも、私たちは考え方を変えました。「学校に行けない」のではなく、「学校以外の場所に行く」という選択をしているのだと。

まるごとフリースクールは、まさにそんな考え方から生まれました。

学校という枠組みが合わない子がいる。それは、その子が悪いわけでも、怠けているわけでもありません。ただ、学校というシステムとの相性が良くないだけなのです。

小学5年生のAくんは、学校の集団生活が苦手で、2年生の頃から不登校になっていました。お母さんは「このままでは社会に出られなくなるのでは」と不安でいっぱいでした。

でも、まるごとフリースクールに通い始めて変わりました。商店街という「リアルな社会」の中で、様々な年齢の人と関わり、お店の手伝いをし、自分のペースで学ぶ。

半年後、Aくんはこう言いました。

「ここには、僕の居場所がある。学校には行けないけど、ここでなら大丈夫」

そして今、Aくんは週に3日フリースクールに通い、好きなことを見つけて楽しそうに過ごしています。

「学校に行けない」ことが問題なのではなく、「どこにも居場所がない」ことが問題なのです。


居場所の3つの条件 - 安心・自由・つながり

では、子どもたちにとって「居場所」と呼べる場所には、どんな条件が必要なのでしょうか?

私たちが7年間の活動を通じて見つけた答えは、この3つです。

条件1:安心 - ありのままでいられる

居場所とは、「こうあるべき」というプレッシャーがない場所です。

学校では「ちゃんとした生徒」であることを求められます。家では「良い子」であることを期待されます。でも、第三の居場所では、そんな役割を演じなくていいのです。

ユースセンターverdeでは、中高生たちが思い思いに過ごしています。勉強する子、ゲームをする子、ただボーッとしている子。誰も「こうしなさい」とは言いません。

「ここに来ると、素の自分でいられる」

ある高校生がそう言ってくれました。それが「安心」の意味です。

条件2:自由 - 自分で決められる

子どもたちの日常は、実は「決められたこと」ばかりです。何時に起きる、何を勉強する、何時に帰る...。

でも、居場所では違います。自分で何をするか決められる。やりたくないことは、やらなくていい。

まるごとフリースクールでは、一日のスケジュールを子ども自身が決めます。

「今日は商店街を探検したい」

「今日は静かに本を読みたい」

「今日は料理を作りたい」

大人はそれを尊重し、サポートします。この「自分で決める」経験が、子どもたちの自己肯定感を育てるのです。

条件3:つながり - 一人じゃない

最後に、最も大切なのが「つながり」です。

居場所とは、「自分を受け入れてくれる人がいる場所」でもあります。

商店街では、色々な人が子どもたちとつながっています。八百屋のおじさん、カフェのお姉さん、古本屋のおばあちゃん、大学生スタッフ、そして一緒に過ごす仲間たち。

「ただいま」と言える場所。「おかえり」と言ってくれる人がいる場所。それが居場所なのです。


地域全体で子どもを見守る仕組みづくり

第三の居場所を作るとき、「特定の施設を作る」という発想だけでは限界があります。

私たちが大切にしているのは、「地域全体が居場所になる」という考え方です。

奉還町商店街では、多くの店主さんたちが子どもたちの見守り役になっています。特別な訓練を受けたわけでも、専門知識があるわけでもありません。ただ、日常的に子どもたちと関わり、声をかけ、時には話を聞く。

果物屋のおじさんは、毎日通る子どもたちの顔を覚えています。

カフェのママさんは、常連の中学生の好きなメニューを知っています。

こんなふうに、商店街全体が「ゆるやかな見守りネットワーク」になっているのです。

もし子どもの様子がおかしいと気づいたら、お互いに「最近あの子、元気ないね」と情報を共有します。そして、ユースセンターのスタッフに「ちょっと気になる子がいる」と連絡が入ります。

地域全体で子どもを見守る。これが、本当の意味での「居場所づくり」だと私たちは考えています。


商店街・地域資源を活かした居場所の可能性

「うちの地域には、そんな施設がない」

そう思われるかもしれません。でも、施設がなくても大丈夫です。あなたの地域にも、子どもたちの居場所になり得る「資源」はたくさんあります。

商店街の可能性

お店は、子どもたちにとって「社会を学ぶ場」です。お金の計算、接客の仕方、商品の仕入れ...。リアルな学びがあります。

公園や図書館の可能性

無料で誰でも利用できる場所は、実は貴重な居場所です。「いつもここにいるね」という関係が生まれます。

カフェやコミュニティスペースの可能性

勉強したり、友達と話したりできる場所。店主さんが声をかけてくれる関係があれば、立派な居場所です。

お寺や神社の可能性

静かで落ち着いた空間。悩みを聞いてくれる住職さんがいれば、心の拠り所になります。

大切なのは、「場所」ではなく「関係」です。どこでも、誰でも、子どもたちの居場所を作ることができるのです。


「ただそこにいられる」ことの価値

最後に、最も大切なことをお話しします。

居場所とは、「何かをしなければいけない場所」ではありません。「ただそこにいられる場所」です。

現代社会は、常に「生産性」を求めます。勉強しなさい、頑張りなさい、成長しなさい...。子どもたちは、いつも「何かをすること」を期待されています。

でも、人間には「ただいるだけの時間」が必要です。

ユースセンターverdeに来て、ソファでボーッとしている高校生。何もしないで、ただそこにいるだけ。

最初は「大丈夫かな」と心配しました。でも、1ヶ月後、その子はこう言いました。

「ここに来ると、ホッとする。何もしなくていい場所があるって、すごく大事だと思った」

そうなんです。「ただいるだけでいい場所」があることが、どれだけ子どもたちの心を救うか。

あなたの周りにも、そんな場所を作れるかもしれません。「何もしなくていいよ。ただここにいていいよ」そう言ってあげられる場所を。

明日は最終回です。奉還町商店街での「まるごとフリースクール」の具体的な活動と、あなたの地域でもできる「新しい相談のカタチ」についてお話しします。ぜひお楽しみに!

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