紹介できる場所がない——なら、つくるしかない

■ はじめに——“学校の外”に必要なものは何か

第3話では、私が学校内に“解放区”をつくり、生徒たちが安心して過ごせる場所を確保しようとした経緯をお伝えしました。

しかしその活動は、学校組織の構造的制約によって継続を認められませんでした。

退職後、私は

「学校という枠の外側で、特性のある子どもを支える場所をつくるべきだ」

と強く感じるようになりました。

その後、私は岡山市内奉還町商店街に小さな教育支援拠点 「SGSG」 を開きました。

ここは、学校の外で生徒が過ごし、学び、相談できる“開かれた空間”としてスタートしました。

しかし、そこで出会った相談は次第に、

“学習”と“発達特性”の問題が結びついた深刻なテーマ

へと変わっていきました。


■ 「勉強しない」「塾に通えない」——保護者の相談は、学力の問題ではなかった

SGSGを始めてからしばらくして、保護者の方からこんな相談が相次ぐようになりました。

「うちの子は勉強が続かない」

「塾に入っても、すぐ行けなくなる」

「成績ではなく、学びに向かう姿勢そのものが崩れている」

「発達特性があると言われたが、適した学習環境がない」

表面的には“学力の悩み”に見えますが、話を聞けば聞くほど、

本質は 「学習特性と環境のミスマッチ」 にありました。

市内の多くの学習塾は、

・集団授業の規律

・スモールステップよりも学習量

・暗記と演習中心

・私語禁止の教室

・決まったペースで進むカリキュラム

といった形式が一般的です。

これは

「集中が続く」「座っていられる」「処理速度が平均以上」

という前提に基づいた仕組みです。

したがって、

・注意の偏りがある

・処理速度がゆっくり

・感覚過敏がある

・自己効力感が低い

・座位保持が困難

こうした特性をもつ子にとっては、

塾そのものが大きなストレス源になります。

つまり、保護者の悩みの根底には

「わが子に合う学習環境が存在しない」

という現実がありました。


■ 「紹介できる場所がない」——支援者としての限界

SGSGで相談を受ける中で、最も困ったのは

“紹介先が極端に少ない” という問題でした。

・発達特性に理解がある学習塾はほぼない

・個別指導でも、特性への理解が十分ではない

・不登校支援はあるが、学習支援と両立していない

・医療機関は“診断”が中心で、学習まで面倒を見られない

保護者の方から

「うちの子に合う塾はありませんか?」

と聞かれても、紹介すべき場所が思い当たりませんでした。

“誰も困っている子を受け止められない”

この空白地帯こそ、学校外教育の大きな課題です。


■ そして——ある人物との出会いが“学習塾”設立の発火点となった

この問題をどうにかしなければならない、と考えていたとき、

SGSGスタッフとして活動していた 右田 がこう言いました。

「紹介できるところがないんだったら……

私たちでつくればいいじゃないですか。」

右田は、

・大手学習塾で教室長として長年勤務

・保護者対応・進路指導の経験が豊富

・自身の子育てでも発達特性に向き合ってきた

という、教育と保護者心理の“両方を理解する”稀有な存在でした。

私はその言葉に驚くと同時に、

“この人とならできる”

と確信しました。


■ 外部専門家との連携——学習と療育の境界を埋める

しかし私は、学校教育の経験はあっても、

療育・発達支援の専門家ではありません。

そこで、市内で発達支援事業を展開する 地域の専門家金谷氏 に協力を依頼し、

学習支援と療育の間をつなぐ“新しい学びのモデル”を検討しました。

特性をもつ子どもが学習に困難を抱える背景は、多くの場合、

・読字・書字の特性

・ワーキングメモリの弱さ

・処理速度の違い

・自己効力感の低下

・学校体験のトラウマ

などが複雑に関係します。

これらを理解せずに“やる気の問題”として扱うと、

本人に大きな負担をかけてしまいます。

そのため、

“苦手を矯正する塾”ではなく、

“得意を起点に学習意欲を再構築する塾”

が必要だと確信しました。


■ こうして、“なないろ学習塾”の構想が生まれた

私たちが目指したのは、

👉 「特性があっても、学ぶ喜びを取り戻せる場所」

👉 「できないことより、できることを増やす指導」

👉 「発達の最近接領域」を活かした段階的支援

👉 「安心したら学べる」という教育心理に基づいた環境

でした。

一般的な塾とは、発想そのものが大きく異なります。

そして名称を

「なないろ学習塾」

としました。

“なないろ”には、

・多様性

・ひとりひとりの色

・違いを価値として尊重する姿勢

が込められています。


■ 学習塾は「学力を上げる場所」以上の役割を担う

特性のある子どもにとっては、

学習そのものが“自信の回復プロセス”になります。

・できなくても叱られない

・得意な課題から始める

・小さな達成を積み重ねる

・“できる自分”を取り戻す

・学習を通じて再び社会とつながる

これは“補習塾”の役割を超えた、教育的・心理的支援 です。

そして、学校だけでは難しい部分を補完することで、

公教育と民間教育の境界がシームレスになる

という効果も見えてきました。


■ 「紹介できる場所がない」から始まった学習塾づくり

振り返れば、なないろ学習塾の原点は

“教育者としての危機感”でした。

学校には対応できない。

しかし子どもは困っている。

紹介できる場所もない。

この状況は、現場の教師であれば誰もが一度は直面するものです。

だからこそ私は、SGSGでの経験をもとに、

学校外に、新たな教育の受け皿を作る

という選択をしました。


■ まとめ——教育は「学校だけで完結しない」時代に入った

第4話では、なないろ学習塾設立の背景を

“学校外の教育資源の不足”という観点からお伝えしました。

今日の教育は、以下の三者の連携が不可欠です。

・学校(公教育)

・家庭

・学校外の学びの場(民間教育・地域)

特性のある子どもほど、

この“連携の網”のどこかが欠けると、途端に孤立してしまいます。

👉 特性のある子どもは「個別の支援」は必要でも、

  「特別扱い」ではなく「適切な環境調整」が必要なだけ。

その環境を学校だけで作れないなら、

学校の外に作ればいい。

それが、“なないろ学習塾”誕生までの道のりでした。


📚 金曜日の予告

【金曜日】第5話:

「なないろ学習塾が大切にしている“学びに向かう力”とは」

・文科省が提唱する“学びに向かう力”の再解釈

・特性のある子に必要な“自己効力感”の再構築

・「できること」中心の指導原理

・学校と学習塾の役割の違い

・教育現場に求められる視点の変化

を、教育関係者向けに丁寧に解説します。


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