全日制か通信制か…迷っている親子に知ってほしい『まずは挑戦』という選択肢

「受験から逃げる」と「適切な選択」の違い

「先生、もう全日制は無理だと思うので、通信制高校にしようと思うんです」

この言葉を聞くとき、私はいつも立ち止まって考えます。それは本当に「適切な選択」なのか、それとも「受験から逃げる」選択なのか、と。

25年間、多くの受験生を見てきて、はっきりと言えることがあります。

通信制高校は決して「逃げ道」ではありません。

通信制高校は、自分のペースで学びたい、働きながら学びたい、全日制とは異なる学びのスタイルが合っているなど、明確な理由があって選ぶ「積極的な選択」です。

では、「受験から逃げる」選択と「適切な選択」の違いは何でしょうか?

「受験から逃げる」選択の特徴:

〇「全日制は無理だから、仕方なく」という消極的な理由

〇本人は全日制を希望しているが、周囲が諦めさせている

〇受験勉強が辛いから、楽な道を選ぼうとしている

〇通信制高校について十分に調べていない

「適切な選択」の特徴:

〇自分の学習スタイルに合っていると納得している

〇やりたいことがあり、そのために時間が必要

〇全日制と通信制の両方を検討した上での決断

〇通信制高校で何を学びたいか明確になっている

もし今、通信制高校を考えているなら、まず以下の質問に答えてみてください。

「お子さん自身が、心から通信制高校を希望していますか?」

もし答えが「いいえ」なら、それは「逃げ」かもしれません。

「全日制高校を受験することすら、考えていませんか?」

もし「受験するだけでも…」という気持ちが少しでもあるなら、それは大切なサインです。


全日制高校を受験する意味と価値

「でも先生、今の成績では合格できないかもしれないのに、受験する意味があるんですか?」

この質問に、私は自信を持って答えます。

「あります。それも、とても大きな意味が」

全日制高校を受験することの価値は、合格・不合格という結果だけではありません。

価値1:目標に向かって努力する経験

受験勉強を通じて、目標を設定し、計画を立て、努力を続ける。この経験は、人生のあらゆる場面で役立つスキルです。

たとえ不合格だったとしても、「あの時、自分はやれることをやった」という経験は、一生の財産になります。

価値2:自分の限界に挑戦する経験

「どこまでできるか」を試すこと。これは、自分自身を知る貴重な機会です。

実際に挑戦してみて初めて、「思ったより自分はできた」「ここが自分の弱点だった」ということがわかります。この自己理解が、将来の成長につながります。

価値3:後悔を残さない選択

「受験しておけばよかった」という後悔は、心に長く残ります。

逆に、「全力を尽くして受験した」という事実は、たとえ不合格でも、清々しい気持ちで次のステップに進めます。

価値4:家族との絆を深める経験

受験勉強は、決して一人でするものではありません。家族が応援し、支え合う経験は、親子の絆を深めます。

お母さんが作ってくれた夜食、お父さんが車で送り迎えしてくれたこと、兄弟が静かに協力してくれたこと。こうした記憶は、一生の宝物になります。

価値5:「やり切った」という自信

最後まで諦めずにやり切った経験は、次の人生の困難に立ち向かうときの原動力になります。

「あの時の受験を乗り越えられたんだから、これくらいは大丈夫」と思える。そんな自信が生まれます。


通信制高校は「保険」として考えるという視点

ここで大切な視点をお伝えします。

通信制高校を「保険」として持っておくという考え方です。

「全日制高校を第一志望として受験する。でも、万が一の場合は通信制高校という選択肢もある」

この考え方は、決して逃げではありません。むしろ、冷静で賢明な判断です。

具体的な考え方:

ステップ1:全日制高校の受験準備を全力で行う

まずは全日制高校の合格を目指して、できる限りの努力をします。

ステップ2:同時に、通信制高校の情報も集めておく

いくつかの通信制高校の説明会に参加し、資料を集めておきます。これは「保険」です。

ステップ3:受験結果を待つ

全日制高校の受験を終えたら、結果を待ちます。

ステップ4:結果に応じて最終判断

合格したら、全日制高校へ。不合格だった場合は、通信制高校を検討します。

この方法なら、「受験にチャレンジした」という経験も得られ、万が一の場合の選択肢も確保できます。

重要なのは、通信制高校を「第一選択」にするのではなく、「選択肢の一つ」として持っておくということです。


受験にチャレンジすることで得られる成長

実際に、「無理かもしれない」と言われながらも受験にチャレンジした生徒たちが、どのように成長したか。具体例をご紹介します。

事例1:不合格だったが、大きく成長したGくん

模試ではずっとD判定。周囲からは「厳しい」と言われましたが、本人は「受験したい」と主張。最後の3ヶ月、必死に勉強しました。

結果は不合格。でも、Gくんは泣きませんでした。

「俺、やれることは全部やった。悔いはない。通信制高校でも頑張る」

その言葉には、清々しさがありました。通信制高校に進学した後も、彼は目標を持って学び続け、3年後には大学にも合格しました。

事例2:合格して自信を得たHさん

「私なんか、どうせ無理」と自己肯定感が低かったHさん。でも、塾で少しずつ成績が上がり、「受験してみようかな」という気持ちが芽生えました。

最後まで不安を抱えながらも受験し、見事合格。その時の彼女の笑顔は、今でも忘れられません。

「私、できたんだ…」

その一言が、その後の彼女の人生を変えました。高校でも前向きに学び、自信を持って生きています。

事例3:不合格だったが、別の全日制高校に合格したIくん

第一志望校は不合格でしたが、第二志望の全日制高校に合格しました。

「第一志望じゃなかったけど、この高校も良い学校だった。受験して良かった」

今では、その高校で充実した生活を送っています。

これらの事例が示しているのは、受験の価値は、合格・不合格だけでは測れないということです。

「万が一」のために知っておくべき通信制高校の情報

全日制高校の受験を前提としながらも、通信制高校の情報も知っておきましょう。「保険」として、正確な情報を持っておくことが大切です。


通信制高校の基本情報

1. 入学時期

多くの通信制高校は、4月入学だけでなく、10月入学も可能です。また、随時入学を受け付けている学校もあります。

2. 入学選考

全日制高校のような学力試験はなく、多くの場合は面接と作文のみです。

3. 学費

公立の通信制高校は年間3〜5万円程度。私立は学校によって大きく異なりますが、年間20〜50万円程度が目安です。就学支援金の対象にもなります。

4. 卒業資格

通信制高校を卒業すれば、全日制高校と同じ「高校卒業資格」が得られます。大学受験や就職において、差はありません。

5. 学習スタイル

自宅学習が中心ですが、週に数日登校するコースや、オンライン授業を活用するコースなど、様々なスタイルがあります。

岡山県内の主な通信制高校:

岡山県立岡山操山高等学校通信制課程(公立)

私立通信制高校の学習センター(複数あり)


選ぶ際のポイント:

・サポート体制が充実しているか

・通学が必要な場合、通える範囲か

・学費が家計に合っているか

・進路指導はあるか

・実際に見学して雰囲気を確認したか

これらの情報を持っておくことで、「万が一」の時も、慌てずに対応できます。


子どもの「受けたい」気持ちを最優先にする理由

最後に、最も大切なことをお伝えします。

子どもの気持ちを最優先にしてください。

「成績が足りないから」

「不合格になったら可哀想だから」

「傷つかないように」

こうした親心から、受験を諦めさせようとする保護者の方もいます。でも、少し考えてみてください。

子ども自身が「受験したい」と言っているなら、その気持ちを尊重することが、最も大切です。

なぜなら:

理由1:人生の主人公は子ども自身

進路を決めるのは、親ではなく子ども自身です。たとえ結果が厳しいものになっても、自分で決めたことなら、納得して次に進めます。

理由2:「やらなかった後悔」は残る

「あの時、受験していたら…」という後悔は、長く心に残ります。「全力でやったけどダメだった」という経験の方が、ずっと前向きです。

理由3:親の役割は「支える」こと

親の役割は、子どもの決断を「止める」ことではなく、「支える」ことです。たとえ不合格になっても、「頑張ったね」と受け止めてあげられる親でありたいものです。

理由4:挑戦する姿勢が何より大切

社会に出てからも、困難に立ち向かう場面は数多くあります。受験で「挑戦する姿勢」を学ぶことは、将来の糧になります。

私の塾では、こんな言葉を大切にしています。

「失敗は成功の反対ではない。挑戦しないことこそが、失敗だ」

もしお子さんが「全日制高校を受験したい」と言っているなら、どうかその気持ちを応援してあげてください。

明日は最終回です。残り3ヶ月で親子ができる具体的なアクションプランをお伝えします。

今夜、お子さんに聞いてみてください。

「あなた自身は、どうしたいの?」

その答えが、最も大切な判断基準です。


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